原油先物がマイナス?なぜ?意味は?

経済

2020年4月20日のニューヨーク商品取引所で、原油価格の指標となるWTI原油の先物価格(5月物)が1バレル=マイナス37.63ドルで取引を終えた。原油先物の取引が1983年に始まって以来、マイナスになったのは史上初めてだ。

1バレル(=約159リットル)の原油を買ってくれた人に37.63ドルあげますよ、ということになるが、どうしてこのような価格が実現したのだろうか?日本でもガソリンを買うとお金がもらえる時代が来るのだろうか?調べてみた。

世界・日本の原油の状況

2018年の国別原油生産量、及び石油消費量は次の表1、2の通り。

           
表1 国別原油生産量(2018年)
順位 国名 生産量(バレル/日)
1
アメリカ
15,311,000
2
サウジアラビア
12,287,000
3
ロシア
11,438,000
4
カナダ
5,208,000
5
イラン
4,715,000
日本
8,547
世界トータル
94,718,000

出典:BP Statistical Review of World Energy 2019, 原油・海外自主開発原油輸入量と国内原油生産量の推移

         
表2 国別石油消費量(2018年)
順位 国名 消費量(バレル/日)
1
アメリカ
20,456,000
2
中国
13,525,000
3
インド
5,156,000
4
日本
3,854,000
5
サウジアラビア
3,724,000
世界トータル
99,843,000

出典:BP Statistical Review of World Energy 2019

ちなみに、現在の技術で経済的に採取可能な原油の埋蔵量のことを「確認埋蔵量」と呼ぶが、2018年時点での国別確認埋蔵量が次の表3の通り。

         
表3 国別原油確認埋蔵量(2018年)
順位 国名 確認埋蔵量(バレル)
1
ベネズエラ
303,300,000,000
2
サウジアラビア
297,700,000,000
3
カナダ
167,800,000,000
4
イラン
155,600,000,000
5
イラク
147,200,000,000
世界トータル
1,729,700,000,000

出典:BP Statistical Review of World Energy 2019

1970年頃に「原油資源はあと30年で枯渇する」と言われていたが、その後新規油田の発見やシェール革命など技術の進歩があり、現在では可採年数は約50年となっている。

また、表から分かるように、日本は石油消費大国だが原油の国内生産量は少なく、ほぼ全量を海外からの輸入に頼っている。参考に、日本の国別輸入量は次の表4の通り。

         
表4 国別原油輸入量(2018年)
順位 国名 輸入量(キロリットル)
1
サウジアラビア
67,524,797
2
アラブ首長国連邦
45,017,010
3
カタール
14,337,731
4
クウェート
13,524,438
5
ロシア
7,869,542
合計
177,477,098

出典:資源・エネルギー統計年報(2018)

日本の原油輸入はその大部分を中東諸国に依存していることが分かる。1970年代のオイルショックなどの影響でリスク分散の重要性が認識され、中東地域以外からの輸入が推し進められたこともあって、1980年代後半には中東依存度は68%程度まで低下していた。しかし、中東以外の産油国の多くが経済発展のため原油を自国内で消費する様になったため、再び中東地域からの輸入に頼らざるを得なくなり、2018年時点で中東依存度は88.2%まで上昇している。

原油先物価格マイナスの日本への影響

原油価格には代表的な指標が3つある。

  • WTI原油先物価格
    世界で最も重要な指標で、特に北米で指標として利用されている。WTI(West Texas Intermediate)とはアメリカ合衆国南部のテキサス州・ニューメキシコ州を中心とする複数の油田の総称。WTI原油先物はニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で活発に取引されており、原油の受け渡しは内陸にあるオクラホマ州クッシングで行われる。
  • ブレント原油先物価格
    ヨーロッパやアフリカ、中東で指標として利用されている。主にイギリスの北海にあるブレント油田で採掘されるため、この名前がつけられている。ブレント油田は海上油田で、生産された原油はブレント・ラインと呼ばれる海底パイプラインでシェトランド諸島のターミナルに送られ、そこで受け渡しされる。
  • ドバイ原油スポット価格
    日本を含むアジア地域で指標として利用されている。スポット価格とは契約の度に当事者間で決定される価格の事で、ドバイ原油は全量がスポット取引で売買され輸出先の制限もないことから、重要指標として利用されている。

さて、このところ新型コロナウイルスの影響で世界的に原油の需要が減少し、原油が受け渡しされるクッシング周辺の貯蔵庫の空きスペースも無くなってきていて、4月15日の米国エネルギー情報局の発表によると、5月初旬にも空き容量がゼロになると予測されていた。

原油価格の下落と原油保管料の上昇を受けて、買い手が中々つかない中でも原油を売る動きが強まっていたことと、期近の5月物の取引期限が翌日の21日に迫った中で、原油貯蔵スペースを持たない原油ETFが売りに出たことで、史上初のマイナス価格が実現した様だ。

一方、ブレント原油やドバイ原油は海上や沿岸で原油が受け渡しができることもあってWTI原油とは状況が異なり、そこまで大幅な下落は発生しなかった。先に述べた様に日本の原油輸入は中東地域に依存しており、ドバイ原油の価格に影響を受けるため、今回WTI原油の先物価格がマイナスになったからといって、国内の石油価格が大きく下落する様なことにはならなかった。

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